近年のCALLに関する研究において、オンラインツールを外国語学習に利用することにより、「真正な」異文化環境が築けることが実証されている。過去の研究は母語話者と非母語話者間の交流を対象にしたものが主であったが、本研究では非母語話者同士の日本語を媒体としたテレコラボレーションを通して、学生のアイデンティティーがどのように構築されていくのかに焦点をあてる。
異なったL1背景を持つ2つの日本語学習者グループの非同期記述式(ブログ)と同期口述式(オンラインディスカッション)コミュニケーション活動から得たデータをHoughton (2012)の異文化間対話モデル ( IDモデル) を枠組みとし、分析を行った。IDモデルは 以下の5段階から構成される:1) 自己分析; 2) 他者の分析; 3) 自己と他者の価値の類似性(または差異)の批判的分析; 4) 自己と他者の価値について特定の基準を参照した批判的評価; 5) アイデンティティーの構築。
分析結果は、学生の選択する単語ひとつひとつが自身のイメージ又は他者に見られたい自分のイメージを形成すると同時に、自身のアイデンティティーへの理解を深めることに繋がっていることを示唆している。またIDモデルにおいても、1)に先立って「自己についての認識なし」という新たな段階の存在が見受けられた。更に1)の自己認識は、1-a) 単独アイデンティティーの認識、1-b) 複数のアイデンティティーの認識、の二つのサブステージを踏んで展開していくことも分かった。データによると、4)においても複数の学生がそれぞれ違った自己と他者に関する批判的評価をしていた。それは既存のアイデンティティー構築モデルが対応していない、自文化の基準と日本の文化基準の混在によるものと考えられる。つまり、異なるL1背景を持つ非母語話者同士の交流の多文化的性質はアイデンティティーの構築をより促進すると言えるだろう。また、本発表では、テレコラボレーションのマルチモーダル分析の可能性についても言及する。