文化的レファレンス―マンガを教材とした日本語教育
今日、外国人学生が大学・高校等で日本語を学ぶ大きなきっかけの一つがマンガやアニメの存在であることはよく知られている。実際、元来サブカルチャーであったこれらのジャンルは日本文化の海外への輸出手段として注目されるようになり、「コンテンツビジネス」として、経済産業省等の政府機関が輸出に力を入れる分野ともなっている。また国際交流基金も、日本語教育におけるこれらのコンテンツの有用性を利用して、マンガ・アニメ形式の教材を開発している。
本発表では、言語および文化教育におけるマンガの利用法について考察する。発表者はスウェーデンの大学にて日本語中級レベルの学生を対象に、マンガ四冊を十週間で読むReading Mangaというコースを担当しているが、本発表ではこのコースの内容のみに限らず、①自国語に翻訳されたマンガを読むレベル、②日本語オリジナルのマンガを読みはじめるレベル、③自ら日本語のマンガを翻訳してみるレベル、の三つのレベルにおいて、日本語(および日本語からの翻訳)の学生が、何を学べるかを概観する。①の段階では学生は必ずしも日本語を学んでいる必要はないが、マンガの欧米語への翻訳では翻訳者が原作の文化的レファレンスに非常に忠実であるという特徴があるため、翻訳者による注が非常に詳細にわたって示されており、読者は自然と特定の日本語の単語や文化的背景について学ぶ結果となる。②のレベルでは、学生は一年間程度日本語の基本的な文法を学んでいるが、文化的レファレンスのほかに口語、擬音語・擬態語、役割語など言語的にもマンガを原作で読むことで学べる点は多い。③のレベルでは、発表者が大学で担当している日英翻訳のコース(日本語上級者対象)で翻訳文書の一つとしてマンガを扱っており、ここで学生が直面することになる翻訳上の問題を例に挙げる。ジャンルにもよるが、一般的にマンガには文化的レファレンス、およびそのパロディが多用されており、原文の意味を完全に把握するには日本語能力のみだけでなく、文化的知識も必要とされるのである。
時間的な制限もあり、本発表では上記①②③についての詳細な考察は難しいが、実例を多用することで、マンガが言語教育、文化教育の双方において非常に豊かなリソースであることを検証したい。
要旨
日本語学習の大きなきっかけの一つとして、アニメやマンガが注目をあびている。本発表では、①他言語に翻訳されたマンガを読む、②日本語オリジナルのマンガを読み始める、そして③自分で日本語から翻訳する、という三つのレベルで、学習者が日本語と日本文化について何を学べるかを考える。