言語教育におけるソーシャルネットワーキングアプローチ(以下 SNA)では、「他者の発見、自己の発見、つながりの実現」を理念に、従来の「わかる」「できる」能力に加え、新たに「つながる」能力を 重要視する(當作 2013)。SNAに基づいてことばと文化を学ぶことで、学習者の人間的成長が促され、社会力も獲得される。 本発表では、上記の教育理念を念頭に、異なる文化圏で学ぶ日本語学習者をオンラインでつないだ取り組みについて紹介する。実践には米国とスウェーデンの大学で中上級レベルの日本語を学ぶ学習者10名が参加した。1学期間、アイデンティティをテーマに授業を行い、非同期型ツールであるブログ、同期型ツールであるビデオ会議システムを利用して双方を継続的につないだ。 アンケート、インタビュー、観察データを分析した結果、学習者はこのようなオンラインでの交流により、言語面だけでなく、自己・他者のアイデンティティや文化について肯定的な視点を持つようになるという変化が見られた。これは自己・他者の新たな発見といえる。また、参加者は、日本に興味があるという共通点があるため、様々なトピックについて積極的に探求し、互いに教え学びあう関係を築くことが容易にできた。さらに「つながり」が形成されていくに従い、日本だけでなく米国やスウェーデンについてもより知りたいと考えるようになり、好奇心の幅が広がった。これはつながりの理想的な実現であるといえよう。 通常、海外の日本語学習者は、日本の英語学習者と交流するケースが多いが、この場合、母語話者に教えてもらうという一方向的な形のコミュニケーションをとりやすい。一方、異なる場所で学ぶ日本語学習者同士の交流の場合、対等な形でのコミュニケーションがとれ、場所によって日本の捉え方も違うことに気づくことで、多元的な視点で日本を捉え直すきっかけにもなる。これは学習者の言語・文化面、精神面での成長にとって大きな意義がある。発表では、学習者、教師だけでなく、教室内外の多くの人たちをつなぐことを可能にするオンラインツールについて紹介し、その効果的な使い方や交流を成功させるための具体的な提案も行う。